2011年の巨大地震と津波の後、福島第一原発でメルトダウン事故が起きるまで、日本全国には54基の原子炉があった。それらは国内のエネルギー需要の約30%を供給していた。だが惨事後、残りの原子炉がメンテナンスや安全基準の見直しで次々と停止され、2013年9月以降は全ての原子炉が停止された状態が続いている。今や日本は電力需要を原子力発電に一切頼らずなんとかやっているのだ。エネルギー不足を補うため、石油や天然ガスの輸入コストが可なり上がったのは確かだが。しかしこれまで原子炉が全て停止しているという理由で停電が起きた、との報告もない。
福島原発事故の被害者として苦しむ人々がまだ沢山いるにもかかわらず、また事故が未だ収束していないにもかかわらず、日本政府はいまだに原子力発電を我が国の重要なエネルギー供給源の一つとしてとらえている。そのため安倍首相は、原子力規制委員会が定める「世界一厳しい」とされる新安全基準の下で認可される原子炉を、出来るだけ早く再稼働させようとしている。国会でその点に関して質問をされると、彼は繰り返し「世界一厳しい基準」と強調する。彼はそのような基準を満たした原子炉は安全だと信じているようだが、「世界一安全な基準」とは、一体どういうものだろうか?
東日本大震災まで、多くの日本人が我が国の原発技術が世界のトップクラスで、我が国の原子炉は、国内で起きるあらゆる自然災害にも耐えうる、と思い込んでいた。だがそれは単に安全神話に過ぎなかったのだ。これまで経験したことのないような巨大津波の後、その神話はあっけなく崩れ消え去った。
去年9月のブエノスアイレスで、2020年度のオリンピック及びパラリンピック競技を東京で開催することに決定したIOC総会に於き、安倍首相は原発の汚染水問題はコントロールされている、と誇らしげに宣言した。だがそれ以降、その汚染水漏れが未だに現場の作業員や近辺地域の住民を悩ましているだけでなく、次々と別の場所で新しい汚染水問題が発生し報告されている。実際、それらの問題が、何時どのように収束されるのかも分からない有様だ。そんな中、首相が強調する「世界一厳しい基準」とはどれほど信頼できるものだろうか。
人口密度が高く、狭い国土のあらゆる場所で活断層が走る地震大国の日本は、原発には世界一危険な国と言っても過言ではない。新安全基準が「世界一厳しいもの」と繰り返す安倍首相は、一体どの国々の基準と比較して言っているのだろうか。どの国であろうと、危険度2位の国より日本の危険度がはるかに深刻ならば、「世界一厳しい基準」も何ら国民の安全を保障するものではない。
世界各地では、これまで経験したことのないような災害が発生している。自然の破壊力は人間の想像を絶する。日本の政界や財界のリーダー達は、未だに原子力が石油や天然ガスを輸入するより経済的に見あうエネルギー源だと思っているが、福島の惨事の最終的コストがどれくらいになるか、現時点で全く分からないのだ。その上、これまで54基から排出された大変危険な核廃棄物をどの様に処理するのかも決まっていない。今日、再生可能エネルギーへの投資は急速に増えている。この様な状況の下、我々は原子炉の再稼働を許すのか?私ははっきりと、そして大声で「ノー」と言いたい。