EUタクソノミーと日本への影響

フランス大統領・マクロン氏は最近、フランスが2050年までに最大で14基の新しい原子炉を建設すると発表した(The Guardian, 2022/2/10)。 ウクライナをめぐるNATOとロシア間の軍事危機の真只中、ヨーロッパ全体がエネルギー不足に直面するかもしれないという強い危機感の下、彼の決定は核エネルギー支持者にはタイムリーと受け止められたに違いない。又彼は再び大統領選への立候補を宣言することが期待されているので、彼の支持者もこの決定を歓迎したに違いない。 彼の新しい原子炉建設計画は、フランスのエネルギー分野での独立を維持し続けたいと思う中道右派の保守派や、何らかの形で原子力産業に携わっている人々にも、好意的に受け止められたに違いない。

マクロンの決断は、持続可能な活動のためのEU分類・タクソノミーにも沿っている。その草案は2021年12月31日に採択されたのだが、まだ今後議論されるとのことで、その後最終決定されるらしい。その草案には、核エネルギーがCO2 排出量削減に大きく貢献する「持続可能で環境にやさしい」投資先として認識された(Rod Adams、Atomic Insights、2022/1/14)。 原子力発電の主要国であるフランスは、核エネルギーが「再生可能で環境にやさしい」ものとし、EUタクソノミーに含めるようEU委員会に働きかけ、それが功を奏したと報告されている(The Guardian、op.cit。)。

明らかに、一部のフランス人は原子力エネルギーへの大きな依存を維持することに反対している。国営電力会社であるEDFは、新原子力発電所の建設や古い原子炉の安全維持において、コスト増加に直面しているためである。その上、環境保護論者は、何万年もの間非常に有毒・危険であり続ける核廃棄物の安全な管理に懸念を抱いているが(ibid.)、私もその心配を共有している。 さらに、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島で経験したように、ヨーロッパのいずれかの原子炉で危機的災害が発生した場合、一体どうなるのだろうか? 最終的なEUタクソノミーが採用される前に、そのような可能性を真剣に検討する必要があるのではないか。ヨーロッパではそのような過酷事故は絶対起こらないとは、誰も保証出来ないからである。

2021年12月31日時点のEUタクソノミーに対し、日本の5人の元首相(小泉、細川、菅、鳩山、村山氏)が今年1月27日、欧州委員会委員長であるフォン・デア・ライエン氏に宛てた共同公開書簡を送った旨を発表した。同日、菅と小泉両元首相は、この論争により多くの注目を集めるために、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を行った。

書簡の中で元首相達は、持続可能性への投資を促進し、気候変動に取り組むためのEUタクソノミーに、原子力発電が含められたことへの失望を表明した。 彼らは、過去に世界で起こった過酷事故を引用し、核エネルギーは安全とは言えないと主張。 福島では「数十万人が 家や故郷から逃れることを余儀なくされ、広大な農地は汚染され、更に放射能汚染水は未だ貯蔵容量レベルを超えて増え続けている」というような、筆舌に尽くしがたい悲劇とこれまで経験したことのないようなスケールの放射能汚染に苦しんでいると強調した。彼らはまた、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでおり、国の膨大な資源と富が失われた」とし、原子力は「国を滅ぼし、次世代の存続と存在を脅かす可能性がある」と強く指摘した。

彼らは、EUタクソノミーに核エネルギーを含めることは、正に「何処にも廃棄出来ないような危険な放射能廃棄物の蓄積に寄与し、それが地球環境と人類の生存を脅かすような重大事故に繋がるリスクを生じさせる」と警告した。 彼らは、福島第一原発事故後、ドイツが原子力発電を段階的に廃止するというメルケル首相の決断を称え、「非核で脱炭素化された世界」は可能であると強調した。

EC委員長が彼らに返答したかどうかは分からない。これまでのところ、彼女からの反応に関し、日本のメディアでは何も報道されていない。

しかし、EC委員長に宛てた書簡は、日本政府側からの激しい反応、そしてその反応に対し、元首相やその支持者によるカウンター反論へと発展した。まず環境大臣の山口氏と福島県知事の内堀氏は、早速2月1日と2日にそれぞれ反応した。両者は、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいるとの元首相達の主張に反論した。両氏の主張は、福島県が数回実施した子どもの健康調査結果に基づき、福島県とUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の「専門家」たちが、発見された小児甲状腺がんと2011年の原発事故には関連性がないと結論付けたとのこと。その為、彼らは、元首相たちの書簡は不適切且つ不正確であり、誤解を生みだし、それによって子供たちが更に差別や偏見に直面し、苦しみが助長されるとの懸念を示した (OurPlanet-TV、2022/02/03)。

岸田首相が2月2日の国会討論会中に元首相らの公開書簡について質問された時、「多くの子供たちが健康面で苦しんでいる」と主張する内容の書簡に反論すると答えた。彼曰く、「福島の子供たちが放射能のために病気になっている」と述べることは、誤った情報を広めることに等しいと言い切った。 彼によれば、そのような誤った情報が、子供たちが受ける差別や偏見をさらに助長させるのだと。 従って、彼もその書簡を不適切だと評価した(ibid.)。

政府側からのそのような反応に対し、元首相達と彼らの支援者、特に政府や東電を相手取って訴訟を起こしている原発事故の被害者や原告たち、そして彼らの代理人弁護士たちは、迅速に返答し、健康検査の結果の小児甲状腺がんの原因を否定する政府側の態度を批判した。疫学的に見て、原発事故前の小児甲状腺がんは、子供100万人当たりたったの1-2例しか発見されていなかったが、今日の福島では、検査を受けた約38万人の内、少なくとも222人の子供が既に甲状腺の一部または全摘出手術を受けているという現実があることを指摘した。これは明らかに「多くの子供たちが苦しんでいる」という否定し難い事実であり、核メルトダウンと子供たちの病気との因果関係を認めるべきであると主張した(甲状腺がん訴訟の原告たちの弁護団・井戸弁護士et.al が2022年2月4日付で発表した政府への返答)。

福島で非常に多くの子供たちが甲状腺がんと診断された理由は、スクリーニング効果によるものである、と政府は今でも主張している。高度な医療機器が検査に使用されたため、本来は全く治療を必要としないか、長期間治療が必要のない初期の小さながんまで見つけてしまったのだとの見解である。福島大学医学部で行われた殆どの甲状腺がん手術の執刀医である鈴木真一氏は、甲状腺がんが原発事故によって引き起こされたとは考えにくいとの政府の立場に多かれ少なかれ同意している。しかし一方で、早くも2014年の段階で、子供たちが不必要に手術を受けることを余儀なくされたのではないかとの非難が出てきたが、彼はそのような疑いをきっぱりとはねつけた。彼によると、手術した子供たちの80%は、既に腫瘍が10㎜を越えていて、他の臓器にも転移しており、2件の例では既に肺への転移が確認されたと証言した。従って、子供たちに施した治療は、適切なものだったと彼は確信した(日本経済新聞、8/28/2014)。

これらの意見の応酬は、影響を受けた子供たちの心理的または肉体的苦痛と将来への心配を軽減するには全く役立たない。 政府が福島で発見された甲状腺がんはスクリーニング効果によるものであると主張するならば、福島から離れた他のいくつかの県で、同様の方法で同様の検査を実施すべきだ。 結果が統計学的に見て、それらの県でも福島と同じくらい多くの小児甲状腺がんが発見されれば、この論争の関係者全員を納得させるはず。 しかし、その場合、政府とこの国のすべての住民は、なぜこの国の多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいるのかを、突き止める責任がある。

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