エッセイ: 高齢化する日本の女性囚人

2013年版の「世界の人口高齢化」に関する国連報告書によると、日本が世界で一番の高齢社会で、人口の32%が60歳以上であった。イタリアとドイツが2番目と3番目ということで、両国とも同じ年齢層はそれぞれの人口の約27%を占めている。

しかしながら、日本では通常65歳かそれ以上の人々を「高齢者」と呼び、彼らは更に(1)65〜74歳の単なる「高齢者」と(2)75歳以上の「後期高齢者」に区別されている。2012年データを基に、2013年に内閣府が出した「高齢社会白書」によると、74歳までの高齢者が総人口に占める割合は12.2%で、後期高齢者は全体の11.9%であった。 つまり日本の人口の24.1%が65歳以上の人たちで構成されている。日本の出生率は世界で最も低いうちの1つであるため、思い切った対策がとられない限り、社会の高齢化の流れを変えることはできないであろう。

人口の高齢化に関連し、私は日本の女性囚人についての悲しい記事に出くわした。(森本美紀:「光を探して: 高齢化すすむ女性受刑者」、朝日新聞Digital、05/23/2014). その記事によると、1993年には65歳以上の女性受刑者はわずか26人だったが、2012年までにはその数が11倍の285人に増加したそうだ。 同じ時期の同年齢層の男性囚人の数は368から5倍の1,907に増えた。増加率は男性よりも女性の方が高かったのだ。又、女性囚人の80%は万引きや盗みなどの軽犯罪者で、その約半数が再犯者であるという。

囚人の高齢化は、単に社会の高齢化を反映しているのだろう。したがって、多くの受刑者は高血圧、糖尿病、白内障、膝や足の痛み、腰痛だけでなく、認知症などの健康障害を抱え、頻繁に刑務所内のクリニックを訪れているそうだ。受刑者が食堂から自分の監禁室へ杖や歩行器を使ってゆっくり歩くシーンは、まるで老人ホームでの光景のようになっているとのこと。

記者は何人かの女性囚人を直接インタビューし、なぜ彼女たちが犯罪者になり、犯行を繰り返すようになったのかを理解しようとした。犯罪の背景にあった考えられる理由として、彼女たちの特定な状況がいくつか挙げられていたが、それを読んだ私は悲しかった。それは次のようなものであった。(1)彼女らは、過去に義理の両親に良く受け入れられなかったことで深く傷つき、その傷は未だに癒されていない。(2)子供たちが独立した後、彼女らは妻として一人で夫と毎日向き合わなければならないことが、今大変なストレスになっている。(3)独立した子供たちとの関係がより疎遠になることで、一層強い孤独感を味わっている。(4)夫の暴力的な行為のもと、家庭には自分の居場所を見つけることが出来ないでいる。(5)そして、既婚者であれ未亡人や独身であれ、将来への経済的不安を抱えている。つまり、彼女たちの多くは、不安感や家庭で自分の居場所を得られなかった為に犯罪者になり、受刑者仲間の中に同志を求めて犯罪を繰り返すようになったとのこと。それにしても、人生の終わりが近づいた時、安らぎや快適さが刑務所内でしか得られない、と思うようになるのは、誰にとってであれ、何と悲しいことであろうか。

出所後、女性受刑者が自信を持ち、刑務所に舞い戻らないように支援するため、いくつかの刑務所では彼女らにカウンセリングサービスを施している。多くの女性受刑者たちのコミュニケーション能力は乏しく、その為自分が住む地域でも孤立してしまい、犯罪に走ってしまったとみられている。その為グループセラピーを通し、彼女たちは自分が置かれていた境遇や、自分が犯した事件を皆の前でオープンに話し合うことでそれに向き合い、コミュニケーション能力を高める。カウンセリングサービスはまた、彼女たちの出所後に再び万引きや盗みを働かないですむよう、どこで、どの様に経済支援を求めることが出来るか、との情報等も提供している。

以前、大半の人々が拡大家族の中で暮らしていた頃、年老いた母親たちは、成人した長男によって守られていた。だが今日の日本では、特に人口密集地域では、もうそうではない。そのため、母親たちは、子供たちにいつまでも感情的に依存することから脱却しなければならない。彼女たちは独立した精神を持ち、自分自身の生活の中で、どんなに小さいことであれ、自分の明確な願いや夢を育まなければならない。そして自分の人生に目的や意義を見つけたとき、より前向きに生きられることでしょう。彼女たちにコミュニケーション能力を身に着けさせることは、彼女たちだけの利益ではなく、それが社会全体の利益にもなる、と私は確信する。

カテゴリー: 異文化, 経済発展, 哲学, 女性と開発, 幸福、幸福論, 日本 タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , パーマリンク

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