2013年の暮れ、安倍首相が論争の的になる靖国神社に参拝したと報じられると、予想通り、中国と韓国は怒りを露わにした。これらの国々と日本の外交関係はすでに緊張していたが、これで近い将来、関係改善の希望も無くなってしまったように更に悪化した。しかし今回は、台湾、ロシア、EUと米国も近隣諸国同様に、アジアの人々の感情に対して安倍首相がいかに鈍感であるかとの失望の念を表明した。
安倍首相と彼の側近は、ワシントンの否定的な反応に狼狽したようだ。以前、小泉純一郎氏や複数の前首相たちが靖国神社へ参拝し、その都度近隣諸国の怒りを買った時でも、米国政府はそれに関して公式見解を述べることはなかったからだ。報道によると、12月に米国副大統領のバイデン氏と安倍首相が電話会談した際、副大統領は首相に靖国には参拝しないよう助言したにもかかわらず、首相は彼の意見を聞き入れず、自分の信念に従って行動したのだ。その為、ワシントンは、特に共通の脅威である北朝鮮に関係諸国が協力して対応できるよう努力している時、安倍首相の行動に対する怒りを「失望」と言う言葉で表明したのだ。岸田外務大臣は直ぐ、米国の新駐日大使であるキャロライン·ケネディ氏に電話し、首相の立場を説明したそうだ。だが彼女は冷ややかに対応し、単にワシントンに彼のメッセージを伝えましょう、とだけ述べたそうだ。
靖国神社参拝に関して否定的な報道を受け、安倍首相は、中国や韓国の人々の感情を傷つけるつもりはなかった、との声明をだした。しかし、彼は、自分の靖国神社参拝に対し、隣国がどのように反応するかは十分承知していたのだ。だからこそ、2006-07年に首相としての任期中、参拝を見送ったのだ。彼は、国の為に尊い命を捧げたすべての人々の御霊に祈りを捧げ、二度と人々が戦争の悲惨さを味わうことがないよう不戦の誓いをした、とのことで、自分の参拝を擁護した。彼はまた、このような行動は、各国の指導者たちの間ではごく一般的なので、他の国の人々が彼の立場を理解できるよう、今後も努力を続けることを強調した。
日本軍の手で苦しんだ中国と韓国の人々も、現在の日本の首相が先の戦争で犠牲になった人々すべての冥福を祈る行為は理解出来るであろう。上司の命令で残虐行為を働いてしまった何十万もの歩兵をも含めてである。彼らは元々一般市民だったが、当時の無謀な軍事政策によって戦いを強いられ、非常に苦しんだ犠牲者だったからだ。
しかし深刻な問題は、安倍首相や何人かの前首相が参拝した靖国神社には、1978年以来、日本のアジア太平洋における侵略戦争の責任者だった、いわゆる「 A級戦犯」も一般兵士と一緒に英霊として祀られている事実である。安倍首相は、近隣諸国の人々の感情を傷つけるつもりはないと言うが、彼の言葉は日本人である私にとっても空虚で不誠実に聞こえる。ドイツ政府が前の戦争で命を落とした人々の為の戦争記念碑に、ヒトラーや彼の側近の名前を刻んでいるのを想像してみるといい。もしそうだとしたら、ドイツが1945年以来、近隣諸国との平和的な関係を追求し、維持してきたにもかかわらず、ヨーロッパの人々は何と思うだろう。第二次世界大戦に対する反省と謝罪に関するドイツと日本の違いは、前者は確固たる立場を維持しているが、後者は誰が政権を担うかによって立場が揺れ動くことである。安倍首相がどれほど自分の立場を説明しようと努力しても、他の国々のまともな指導者たちは彼の立場に理解を示さないだろう。彼がより早くそれに気付くことが好ましく、迅速な行動は、外交上既に受けた国益へのダメージを最小限に食い止めるだろう。
安倍首相や彼の支持者は、いわゆる「A級戦犯」は戦争勝利者によって一方的に裁かれたとよく主張する。しかし無条件降伏した敗戦国、日本にとって、それは予期出来ることだっただろう。しかし彼らがその裁判の結果を真剣に疑ったならば、なぜ日本はこれまで公式に、国がどこでどう間違ってしまったのか、一体誰が無謀にも国家の存亡の危機に瀕するような世界大戦へと導いてしまったのかについて、徹底的な調査、総括をしなかったのだろう。日本が1952年にサンフランシスコ平和条約で独立を回復した以降、これが行われるべきだった。
日本の敗戦からすでに69年が過ぎ去った。安倍首相の不戦の誓いが真剣なものならば、そして二度と人々を戦争の苦難にさらさないとの誓いが本物ならは、彼が第二次世界大戦に関する日本の総括の実施を漸く提案することが望ましい。その結果は日本が近隣諸国と世界の国々との平和を維持するのに役立つだろう。それをするのにまだ遅くはない。