エッセイ: 女性と日本の成長戦略

2012年12月、安倍晋三が再び日本の最高権力の座に着くやいなや、彼が信ずる日本の活性化戦略、すなわち「3本の矢」と称する3政策を発表した。第一の戦略は膨大な量の資金を金融市場に放出する緩和政策で、その結果として円の価値を他の主要国通貨に対して押し下げた。更にそれが日本の輸出を改善し、最終的には日本を長期の経済停滞から引っ張りあげるだろうと期待されている。第2の政策は「機動的な財政政策」の下、10兆円を上回る大型の補正予算の可決(The Economist, 2013年6月15日号、p.25)。その後6月の中旬、安倍首相は3戦略の中で最も重要である「第3の矢」となる「日本再興戦略―Japan is Back」を発表した。最後に発表された戦略の成功が、いわゆる「アベノミクス」全体の結果を左右するだろうと考えられている。

この戦略を綴った文書は、少子化による労働人口の減少に直面している日本が、産業競争力を向上させ、活性化する為に対処しなければならないいろいろな問題点に言及している。またこの再興戦略の成功は、民間部門の積極的かつ広範な参加が不可欠であると強調されている。

この再興戦略の下には3つの「アクションプラン」が提案されており、その一つが「日本産業再興プラン」である。そのプランが更にいくつかの重要課題に分かれている。例えば、「緊急構造改革プログラム」、「雇用制度改革と人材力の強化」、「科学技術イノベーションの推進」、「世界最高水準のIT社会の実現」、等々である。更にこれらの重要課題を詳細に記述した副課題になっている。

私の関心は、特に、「雇用制度改革と人材力の強化」の下、「女性の活躍推進」という項目である。ここでは、日本がこれまで女性の能力を十分に活かして来なかったという点が認識されている。縮小する労働人口を背景に、今後は女性達が就職しやすく、なおかつ職務実績を積んで最大限の能力を発揮できるような雇用制度改革が不可欠だと指摘されている。新たな成長分野で、日本が彼女達の人材を確保できるかどうかが重要だと強調されている。

またこの項目では、女性が単に労働力としてではなく、管理職に占める割合も増えるのを期待していて、それが更に経済活動に多様なアイデアや価値観をもたらすとしている。そのことが新しい商品やサービスの開発にもつながり、日本経済がより活性化されるだろうとのこと。また二重所得の家庭の購買力が上昇し、それが社会全体の景気を上向かせ、人々が真に豊かさを実感するようになるとのこと。

小さな子どもを抱えた夫婦の支援に関しては、両親共が安心して子育てをしながら仕事を続けられるよう、保育施設の数を増やすことを提案している。女性の労働人口を大幅に増やす為、彼女達が産休後に職場に復帰しやすいように、そして更なる昇進を奨励するために、あらゆる施策を講じるとのこと。例えば、積極的に女性をより高い地位に起用することも選択肢の一つである。実際、6月中旬過ぎ、安倍首相は7月2日付けで厚生労働省の事務次官ポストに女性の幹部職員を任命した。他の女性もそのようなトップの位置に抜擢されるかどうかは今後注視したい。

上記の目標を達成する為、「日本再興戦略」文書には具体的なターゲットが設定されている。例えば、2010年には女性労働者のわずか38%が第一子を出産した後仕事に復帰したが、安倍首相は2020年までにその割合を55%とし、また25歳から44歳までの女性の労働参加率を2012の68%から73%に引き上げるとしている。それを達成する為に、2017年までに新たに40万人の子供たちを引き受けられる保育施設を増やすとのこと。又2011年、男性の育児休暇の取得率はたったの2.63%だったが、2020年までには13%まで増やすとしている。更に、国内で指導的地位を占める女性の割合を、2020年には約30%に高めるとのこと。

今日の日本に於ける男女平等に関しての厳しい現実を考慮すれば、上記の目標が、特に指導的地位に占める女性の割合や男性の育児休暇の取得率に関して、余りにも非現実的だと言わざるを得ない。内閣府の男女共同参画局が6月に発表した2013年度版の「男女共同参画白書」に記載された最新の統計によれば、日本の女性は総労働力の42.3%を占めるが、管理職に占めるのはたったの11.1%だった。他の先進国では、女性が労働力の50%弱を構成している(例えばフランスでは47.5%、スウェーデン47.2%、米国47.2%、ドイツ46.1%、など)が、管理職に占める割合は日本よりはるかに高い(例えばフランスでは38.7%、スウェーデン31.2%、米国で43%、ドイツの29.9%、など)。

日本の民間部門では、2012年に女性が占める課長と部長の割合はそれぞれ7.9%と4.9%であった。一方、国家公務員で東京本省の課室長相当職以上に占める女性の割合は僅か2.6%であった。それでも、これは1986年の0.6%(年男女雇用機会均等法の施行後)、1996年の1%そして前年の2.5%から改善されている。2012年には、国家公務員I種試験で採用された、いわゆる「キャリア」組の24.4%が女性だった。しかし現在ではほとんどの省庁での女性の採用を2015年までに、少なくとも30%に引き上げる目標を掲げているし、外務省などは40%もの高いターゲットを示している。国家公務員に関して、採用だけのターゲットなら、目標達成もそれほど困難なことではないだろう。しかし過去20年の男女平等是正の歩みを考慮すれば、女性の管理職に占める割合を30%はおろか5%に引き上げるのもそう容易なことではないことが明らかだ。

2011年度の男性の育児休暇について、民間部門と国家公務員の権利取得者の内、それぞれ2.63%と2.02%が利用したと報告されている。安倍首相はその割合を2020年までに13%に引き上げるとしているが、それを達成する為に、彼はどのような魔法の杖を持ち合わせているのだろうかと考えてしまう。実際、厚労省が7月4日に発表したデータによると、民間部門では2012年にその割合が昨年から0.74%減少し、1.89%になったとのこと(http://digital.asahi.com/articles / TKY201307040464.html)。それは、せっかく獲得していた権利も、多くの被雇用者達はのんびり享受していられない、と感じた経済的状況の表れだったのだろう。

上記のデータに加えて、私が驚いたのは、昨年内閣府が行った「男女共同参画社会に関する世論調査」の結果であった。「女性が職業をもつことについての考え方」の質問に対し、回答者の47.5%が「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」と答えたのに対し、49.8%は何らかの条件をつけている。例えば、3.4%は「女性は働くべきでない」と回答し、5.6%は「女性は結婚するまで働いてもよい」と考えている。更に10%は、「子供ができるまでは、職業を持つ方がよい」と思い、30.8%は「子供が出来たら職業を辞め、大きくなったら再び職業を持つ方がよい」との意見だ。

この調査報告書には、1992年以降7回実施された同様の世論調査結果も、比較の対象として掲載されている。確かに、1992年以降、女性が生涯職業を持つことに肯定的な意見を持つ人々の割合は着実に増加してきた。しかし、1985年に男女雇用機会均等法が施行されて30年近くたった今日でも、女性が生涯職業を持つことを全面的に支持する人々がまだ少数派と知って、驚くとともに悲しい気持ちになる。

上記の質問に対する男女間の態度の違いだが、女性回答者の48.3%が「子供ができても、すっと職業を続ける方がよい」と答えたのに対し、同意見の男性回答者は46.6%だった。

年齢層によっての態度の差も興味深いもので、30-39、40-49、50-59、そして50-59歳のそれぞれの年齢グループにおいて、過半数は女性が「子供を持ってもずっと職業を続ける方がよい」を支持している。しかし20-29歳の年齢層においては、たった39.1%がその意見だ。この結果をみると、日本の若者が過去10年間、人権や男女平等の概念に関して、一体どのような教育を受けてきたのだろうか、と不思議に思わざるを得ない。70歳あるいはそれ以上の年齢層の回答者の37.4%が同意見で、年齢層での比較では一番低い割合だったが、彼らの年齢や日本社会の以前の価値観を考慮すれば、それは十分理解出来る事だ。

社会の価値観及び人々の意識はなかなか変わらない。安倍首相が日本の再興戦略の一側面として管理職や指導者に占める女性の割合を引き上げる目標を立てたが、その目標に到達するには苦しい戦いに直面するだろう。彼はまた、日本の若者達が広い視野を持ち、国際的に広く受け入れられている男女平等の価値観を身につけられるよう、日本の教育をも徹底的に見直さなければならない。しかし、当分の間、彼が既に設定した目標を達成する為の秘策を持ち合わせていない限り、第二の魔法の杖を取り出さなくてはならないだろう。

カテゴリー: 経済発展, 職業, 労働状況, 国家の富、資産, 女性と開発, 従業員教育, 日本 タグ: , , , , , , , , , パーマリンク

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