日本の厚生労働省が2013年2月21日に公表した報告書によると、フルタイム労働者の平均給与の男女格差が二年連続で縮小したそうだ。今回の調査によると、女性の給与は男性の給与の70.9%に達し、これで二年連続7割を超えたという。しかしこの調査は、10人以上の従業員を抱える事業所でのフルタイム労働者だけを対象とした。更に残業代やボーナスを考慮せず、所定内給与だけが調査の対象となったそうだ。合計で4万9230社が回答したとのこと。(朝日新聞、2013年2月22日の朝刊の 「男女の給与差が縮小」を参照)
日本の女性労働者の平均時給が男性労働者の時給に比較して、長年もの間如何に低かったかを知る者として、この調査結果は、女性が徐々に、でも確実に、賃金に関して男女平等を勝ち得つつあるように思え、私は驚きと同時に嬉しく思った。随分前だが、私は国際労働機関での仕事の一貫として、選択された国々の、選択された製造業に於ける男女の時給を二十年間に渡り比較した研究(参照: S. Tomoda: Women Workers in Manufacturing, 1971-91, ILO Geneva, 1995)を行った。その時、殆どの製造業分野で、日本の女性労働者が男性同僚の僅か50―60%の賃金を得ていること、更にある分野では50%未満の賃金を得ている事実を知り、愕然とした。
いかなる統計データにしろ、私達はそれらを基に何らかの結論に達する前に、慎重に吟味し比較しなければならない。上記の二つの研究は完全に異なる時間枠で実施され、また異なる産業が対象であったが、指摘されるべき点は、厚労省の調査はフルタイム労働者の所定内給与だけを対象にしたのに比べ、私の研究はILOの国際労働統計年鑑を基に、製造業のあらゆる労働者の総収入を対象にしたものだった。ここで私が特に指摘したい点は、日本では女性労働者の多くが、パートタイマーを含む非正規労働者であること、そして厚労省の調査では非正規労働者が全く含まれなかったことである。更に強調したいのは、日本の非正規労働者の多くは、正規労働者と同じくらい長時間労働に従事しているにもかかわらず、彼らは正規労働者が受けている福利厚生や諸々の権利を享受していない点である。その為、もし厚労省の調査に、長時間労働の非正規労働者が含まれていたなら、一体どのような男女の賃金格差のデータが得られたのだろうかと思う。
又数日前、私は別の国の男女賃金格差のデータを耳にし、大変驚いた。3月8日午後8時に放送されたフランスのテレビ局、France 2、のニュースによると、INSEE(フランス国立統計経済研究所)が最近発表したデータによると、フランスの女性労働者の平均所得は男性労働者のより28%少なかったとのこと。この数字に私が驚いた理由は、私が以前行った研究調査では、製造業に於けるフランスの女性労働者の時給は、1971年にすでに男子の約77%、更に1991年には78.9%に増えていたからだ。これらのデータを考えると、彼女達の賃金が、今ではもっと増えているだろうと想像したからだ。
どの社会現象であれ、統計データはある一定の側面を描写するのに便利よく用いられる。しかし我々は、データが一体何を表わしているのかを、はっきり理解する必要がある。データがどの様に、何時、何処で得られたかを知ることで、それらが表面的に描写している状況、及びそれらデータの裏に隠された実態を理解することが出来るのである。