エッセイ: 吾が故郷へ

フランスの我が家からスイスのジュネーブにあるオフイスには、毎日国境を越えて通勤している。距離は6km程なので12,13分もあれば十分。通勤には交通が激しい国道を避け、畑の中の裏道を好んで走っている。

道の両側には小麦や油菜、とうもろこし、向日葵等がその季節に応じて栽培される。菜の花や向日葵が一斉に咲きこぼれる季節は実に見事で、通勤途中の目を楽しませてくれる。

しかし、私を一番落ち着かせてくれるのは、やはり青々とした小麦畑だ。小麦の小さい苗が次第に大きくなり、辺り一面が緑色のカーペットを敷いたようになる。それはまるで日本の田園風景のようになり、どうしても故郷の東田中(注 福井県あわら市にある吾が生まれ故郷)を思い出さずにはいられない。やがて畑一面が黄金色に染まれば、小麦の収穫が間近に迫る。これもちょうど故郷の刈り入れ時寸前の光景だ。

故郷を離れてもう30年余りになる。幼い頃になじみ親しんだ景色は、いつまでも、そして世界のどこに住もうと「故郷」というイメージとして、心の奥にしまい込まれている。疲れた時や寂しく感じる時、それが私を優しく包んでくれたり、励ましてくれる。心のよりどころとなる故郷を持つ私は、大変幸せ者だと思う。

経済発展に伴い、これまでと同様、今後も故郷はどんどん変化していくでしょう。しかし金津町(注 吾が故郷金津町は数年前、隣の芦原町と合併し、あわら市となった)の皆さんにとっても、金津町を離れた人々にとっても、いつまでも優しい故郷であり続けてほしいと願う。(金津町広報誌、KANAZ, 1996年12月号より)

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