エッセイ: 悲嘆にくれる猫

私たち人間は、さまざまな色合いの感情を持っている。置かれた状況により、喜んだり、悲しんだり、穏やかでいたり、また怒りを露にする。猫も同じ様にいろいろな感情を持っているのだ。大切に思う相棒を失った猫が、どのようにその悲しみを表現するのか、皆さんはご存知であろうか。私はかつて私が大変可愛がっていた雄猫が死んだ時、一緒に飼っていた雌猫が一晩中、彼の死を嘆き悲しむのを目前にしたことがある。

私は「ノルウェーの森の猫」という種の、とても可愛い雄のトラ猫を子猫の時にもらい、「タロー」と名付けた。1年後、今度は私の住む町に近い動物愛護協会で、アメリカンショートヘアのような、これも可愛い雌の子猫を見つけ、我が家に連れて帰り、「トミ」と名付けた。トミが我が家にやって来た頃、タローは既に美しい長い毛で覆われ、堂々とした尻尾を持った成猫になっていた。それまで一人ぼっちだった彼は、彼女が新たに家族として加わったことを大層喜び、彼女の面倒をよくみた。彼がしきりに彼女の額辺りを舐めているのを、私は何度も見ている。彼らは兄妹のように仲よく暮らした。蒸し暑いスリランカで過ごした三年もよく気候に適応し、二匹とも殆ど病気にかからず、ずっと健康で過ごした。

私たちが真冬に再びジュネーブに戻った時、彼らは今度もヨーロッパの気候に難なく適応出来たようにみえた。しかし、一年経った頃、タローは突然呼吸器合併症を発病し、動物病院で数日間治療を受けた後死んだ。彼は後1カ月で九歳になるところだったので、トミは彼と約8年間一緒に住んだことになる。

タローが死んだのは3月後半のある金曜日だった。その朝出勤する前, 私は彼の様子を見に動物病院に立ち寄り、彼の病状が良くなっているのを確認した。以前よりもっと楽に呼吸をしていた。獣医さんが、週末には彼を家に連れて帰れるかもしれないとまで言ったので、仕事の後、私は弾む心で動物病院へ向かった。しかし私を待ちうけていたのは、その午後彼が突然心停止で死んだ、という衝撃的なニュースだった。当然私はわっと泣きくずれた。

息絶えたタローの亡骸は、彼がこの数日間過ごした大きなケージの中に横たわっていた。私は泣きながらそれをケージから取り出し、両腕でしっかり抱きしめた。彼の温もりがまだ少し感じ取られた。獣医さんは診療所を閉めようとしていたのだが、私がタローの亡骸を放すまで辛抱強く待ってくれた。彼が火葬の手配をしてくれるとのことだったので、亡骸を再びケージにそっと横たえ、家路についた。

私は悲しみにくれて帰宅した。ドアの内側で待っていたトミを抱き上げ、涙声で、私たちの大事なタローが私たちのもとを去って行ったことを告げた。彼女がどれだけ私の言葉を理解したかはわからないが、その後の彼女の行動を見るかぎり、彼女はそれが何かを十分理解したようだった。

通常、仕事を終えて帰宅して、私がまず第一にする事は愛猫たちの夕食の支度だった。彼らはそれぞれの尻尾を私の足首辺りに巻きつけながら、自分たちのお皿が洗われ、そこに新たに夕食分の餌や新鮮な水が注がれるのを待った。その夜も私はトミを一旦床に下ろし、着ていたジャケットを寝室のベッドの上に脱ぎ捨てると、台所に行き、彼女の夕食の準備をした。支度が整ったところで彼女の名前を呼んだ。それまでは名前など呼ぶ必要はなかった。両方とも台所で夕食の支度が出来るのを待っていたからだ。だがあの時は、何度も彼女の名前を呼んだ。しかし、彼女は現れなかった。

いったいトミは何処で何をしているのだろう、と彼女を探しに台所を出ると、彼女は私のベッドの上に横たわっていた。もっと正確に表現すると、彼女はベッドの上に脱ぎ捨てられていた私のジャケットの上で、じっとうずくまっていたのだ。彼女はそこにタローの存在を感じ取り彼と一緒に居るのを楽しんでいるかのようにみえた。そして夜が更けるまでその同じ位置にうずくまっていた。

夜遅く私が床に就こうとすると、トミはまだ私のジャケットの上で同じ体勢で横たわっていた。私はそっとジャケットを彼女の体の下から取り除き、玄関ホールにある机の椅子の背もたれに掛けた。その椅子の上には座布団が置かれていたが、そこはタローのお気に入りの昼寝の場所だった。しかしトミがそこに座ることはそれまで一度もなかった。だがその夜トイレに起きた時、彼女がその座布団の上で、そしてちょうどその椅子に掛けたジャケットに包まれるように丸くなっているのを見て私は驚いた。彼女は一晩中その位置にうずくまったままでいた。

誰か大切な人を失ったとき、私たちは通常、悲しみにくれながら、繰り返しその人について語ったり、その人と共有した素晴らしい時間を思い出しながら喪に服す。トミも同じような行動をとった。もっとも彼女は私たち人間のようには話さなかったが。私のトミがその座布団や私のジャケットの近くにうずくまって居たかったのは、それらから感じ取れるタローの匂いが彼女にとって大きな慰めになったからに違いない。その特定の座布団の上に座っていると、彼女は彼と一緒に過ごした幸せな八年間を懐かしく思い出すことができたのだろう。

普通、時間は私たちの悲しみや痛み癒してくれる。これは猫にとっても同様と思われる。トミも数日間悲しく寂しそうにしていたが、徐々に食欲を取り戻していった。

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