エッセイ: 真夜中のヘアスタイリスト

ある夜、誰かに髪を梳かれている夢を見た。幼い頃、母に櫛で梳かれた時のような心地良い気分だった。しかしその心地良さは長続きしなかった。髪を梳く何者かが、今度はその櫛で額辺りの髪を梳こうとしたからだ。櫛の歯で額が傷つくような痛みを感じ、驚いて目を開けると、顔上には私の髪をしきりにグルーミングするタローがいた。

タローというのは、我が家にもう四年余り同居する「ノルウエーの森の猫」という種の、毛のふさふさした大型猫である。知人から貰った頃は私の靴に入るくらい小さかったが、今では体重が十キロもある。

狐のような尻尾を左右に振りながら歩く様は、なかなか威厳がある。牙も鋭く、威嚇する時はとても怖い。舌はまるでサンドペーパーのようにざらざらで、それで舐められると擦り傷でも負いそうな感じである。けれども実は優しい心の持ち主で、寝相の悪い私の乱れた髪をそのまま放っておけず、グルーミングをするようになったのである。

彼のこの気持は、我々と同居するトミにも及ぶ。トミは捨て猫で動物愛護協会に預けられていたのを、彼の妹として貰ってきたのだ。アメリカンショートヘアーのような猫で、タローも彼女が可愛くて仕方がないといった様子。彼の気持ちは大変有り難いが、トミにとっても私にとっても安眠妨害は困る。時々トミは不快感を示し、彼を威嚇する。私もついに我慢できなくなり、彼をひどく叱った。

やれやれもうグルーミングはしなくなったと思ったが、朝鏡の前に立つと、髪がオールバックになっていたり、出来そこないのパンクルックになっている。どうも彼は舌加減をしながらグルーミングを続けているらしい。それにしても何とかもう少しまともなヘアースタイルにできないものか。彼はまだまだ修行が足りないようだ。(ILOジャーナル、1997年8月号より)

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